1. 起きている事実(観測)
生成AIの普及が一巡した後、AIを現実空間で動かす「フィジカルAI」への関心が高まっている。
日本では、日立製作所、NEC、富士通といった企業が、それぞれの強みを生かしたフィジカルAI戦略を示している。
富士通は、ロボットやAIが「空間全体」を理解するための技術として、「空間World Model」と呼ばれる研究成果を発表した。
これは、ロボット単体の判断能力を高めるというより、空間内の人・モノ・ロボットの関係性を構造化し、共有されたモデルとして扱う試みである。
政府もまた、AIとロボットを組み合わせた技術開発を基本計画に盛り込み、制度面からの後押しを始めている。
2. そこにあった前提条件
これまでのAI活用は、主にデジタル空間を前提としていた。
業務システム、検索、翻訳、生成AIなどは、入力と出力が比較的明確で、環境変数も限定されている。
一方、ロボットが使われてきた現場は、工場や倉庫のように動線や手順が事前に定義された「管理された空間」が中心だった。
人の行動はある程度想定可能で、ロボットは決められたルールに従って動くことが求められていた。
この前提では、「正確に動くこと」や「止まること」が安全性の中心的な指標になっていた。
3. 前提が変わったことで起きているズレ
フィジカルAIの適用範囲が、住宅、オフィス、公共空間といった日常空間へ広がるにつれ、前提条件が変わり始めている。
日常空間では、人の行動は非定型であり、物の配置も流動的で、予測不能な出来事が常に発生する。
この環境では、「決められた通りに動くロボット」と「その場の状況で動く人間」の間にズレが生じやすい。
精度や計算能力を高めるだけでは、空間全体としての調和が取れない。
結果として、ロボットは安全ではあるが、周囲から浮いた存在になりやすいという問題が表面化してきた。
4. 一度、定点に戻って見た整理
富士通が提示している「空間World Model」は、個体としてのロボット知能ではなく、空間そのものを一つの知能単位として扱う発想に基づいている。
人やモノの関係性を意味的に構造化し、時間の流れの中で変化するパターンとして捉えることで、「次に起こり得る状態」を確率的に推定する。
これは、人の内面や意図を直接理解しようとするのではなく、空間に現れた行動の相関関係だけを扱う設計になっている。
この整理に立つと、フィジカルAIの論点は「人に近づくAI」ではなく、「人と同じ前提を共有するAI」へと移っているようにも見える。
ロボットが何者かになるというより、空間の一部としてどう振る舞うかが問われている状態だと整理できる。

収入の問題を、能力ではなく「構造と立ち位置」から見続けています。

コメント