目の前でジュージューと音を立てて調理される臨場感。
そして、食材の甘みを引き立てる砂糖の使い方が絶妙。
写真を撮る習慣がなく、ついメイン以外を撮り逃すほど、どれも印象的な味わいだ。

お手頃価格ながら本格的なランチが楽しめるこのフランス料理店に、気付けば三度も通っている。
若いシェフのお兄さんは、いかにも職人気質。
必要最小限の言葉だけを口にして、表情は控えめ。
最初は少し無愛想に感じたけれど、どこか一本筋の通った人でもある。
入店すると、カウンター席が空いているのに「こちらへどうぞ」と入り口近くの席を案内される。
声が小さくて聞き取れず、思わず奥へ行こうとしたら「こちらでございます」と静かに訂正。
二度目の来店でも同じ席を指定されたので、「これは何かのルール?」と少し首をかしげた。
フランス料理の作法なのか、それともお店のこだわりなのか…。
さらに、前菜を食べ終えた後、フォークをお皿に置いて下げてもらおうとしたら
「フォークは、こちらにお願いします」と、テーブル脇のカトラリー置き場を指された。
新しいフォークに替えるのではなく、再利用するスタイルらしい。
二度目も同じ対応で、三度目の今回は“教育済みの常連”として先に実行(笑)。
カトラリーが右側にしか並んでいないのも、最初は不思議だった。
でも、簡易スタイルながら清潔で整然としており、むしろ店の美学が感じられる。
「フランスの伝統なのか、それともシェフの流儀なのか」——今でも少し気になるところだ。
そんな小さな戸惑いを抱えつつも、料理の味は圧倒的。
何を頼んでも「これでこの価格!?」と思うほど完成度が高く、
お昼どきはいつも満席。入れずに断られることもある人気ぶりだ。
そんなこのお店に初めて来てみた時のこと。
私は時間をチェックせずに来店し、閉店時間を過ぎてしまった。
「恐れ入ります、当店は14時半まででして…」と静かに声をかけられ、
その日以来、時間を気にするようにしていた。
そして三度目の来店。
あと10分で閉店、急いで食べていると——
すれ違いざまに、お兄さんがふと声をかけてきた。
「慌てなくても大丈夫ですよ。」
その一言に、思わず心がほどけた。
不意打ちの優しさって、どうしてあんなに沁みるんだろう。
笑ってしまった自分が少し照れくさかったけど、
その瞬間に「このお兄さん、実はとても繊細な人なんだ」と感じた。
最初は“無愛想なシェフ”だと思っていたのに、
通ううちに少しずつ心の距離が近づいていく。
お客はお店の流儀を覚え、シェフも常連を覚えてくれる。
その小さな信頼の積み重ねが、料理の味をいっそう深く感じさせる。
もしかすると、常連たちは皆、
いつしか料理の美味しさだけでなく——
あの寡黙なシェフの人となりにも惹かれて通っているのかもしれない。
そう思うと、このお兄さんの“職人気質”こそが、
この店の味と空気を作っている。
無駄がなく、少し不器用で、でも真っすぐ。
その姿勢に、静かなフランスの風を感じた。

元音楽教員。現在は「awabota」というコミュニティで、お金と自由な時間を同軸で作る仕組みを実践中。頑張ることをやめた方がお金がまわる。それを体感しています。
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